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『青い鳥』重松清×阿部寛[映画] [movie]

いじめ騒ぎが終わり、事なかれの体制のなか、立派な反省文を書いて反省したと思っている僕たちの前に吃音の先生がやってきた。

その先生はまず、いじめで転校した生徒の机を元に戻させ、机に向かって「野口くん、おはよう」と挨拶をしている。気持ち悪い。俺たちに対する罰なのか。もう、終わったはずなのに。忘れたいのに。

吃音の先生は少ない言葉を絞り出すように生徒たちに語りかける。本気の言葉は本気で聴いて欲しいと。そして強制はしない。
わかりにくいその行動に苛立ちを見せる周囲。親、学校。ただ、生徒たちは消化し切れていない自分たちの心に寄り添ってくれていることに気がつき始める。加害者をはじめ…。

吃音をもつ重松清が現場の子供たちにしてあげたいことなんだろな。

その語りかけは鋭く現場に突き刺さるよう。これは大津事件の前に公開されている映画なのに。いじめの問題は既視感が何回も繰り返されている。教育関係者は観るべき映画なんじゃないかしら。

言葉を扱う作家として、教師から強制されて書き直された[立派で道徳的な]反省文をとても虚しく受けとめているのが痛いほどわかる。若い先生に「書き直させるほど生徒が見えなくなってくる。正解を求めているだけ。」と言わせている。形式的な反省の仕方を教え込んでどうするというのだろう。なかったことにするのが大人の儀礼だと教えたいかのよう。

形式の言葉が染み込んだ生徒には、先生の言葉が届かない。そんな描写があったようにみえたのは気のせいかしら。

自分が追い込んだのかもしれないと悩み始める生徒役、本郷奏多君の言葉は追い詰められた悲壮をもって、心を強くえぐってきた。
「人をキライになるだけでも、いじめですか?」「だって、笑っていたから」

考える、逃げたい、考える、消したい、考える、考えた先に、そっと差し出された先生の言葉を聴いて、私も思わず涙がぼろぼろ…。

本郷君は、先生の少ない言葉をすくい取るようにして、先生の思いを自分のものにする過程を静かに表現していました。

原作は読んでいないのだけど、映画だからこそ説明の少ない臨場感を持っていた。居場所を作るためにかりそめの姿をした友達たちの言葉と表情から、吃音だったり表現がうまくできない人の少ない言葉と表情から、本当の気持ちが読み取れるかどうか、を試されている気がした。

そして、現場の人間たちは…私たちは、ただの『いじり』と片付けてその微かな声を聞き漏らしていないだろうか。かりそめの声に隠されることに甘えて、当たり前の光景にしていないだろうか。(『透明化』というようです。)

「人を軽くみる。ないがしろにする。それがいじめだ。それを見過ごすのもいじめだ。」教室だけでなくこの世の中で、その罪が軽くならないことを祈るばかり。

それから、言うまでもなく、阿部寛が作る、吃音者の作り出す空気と本気があってこそ成り立つ映画。阿部寛の押さえ込んだ演技も新鮮なので、そんな点でも観る価値あり。いい映画を観ました!

http://youtu.be/Bsrbx53z1Tk
image-20130716161515.png
いじめを防ぐ集団作り。教育界は。http://anyuko.blog.so-net.ne.jp/2012-08-07 『多様な意見を』という杉森伸吉教授の進言はいじめから脱却する活路だと思えます。みんなが言ってるから…根拠がなくても空気に洗脳されやすい国の私達だからこそ。

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コメント 3

HanageDarake

あゆこさん、こんにちは。

原作の『青い鳥』は短編集なんですね。
収録されている他の短編も面白そうなので、今度、原作を読んでみようかと思います。

ちなみに、同じく重松清の小説で『十字架』という長編があります。
また違った側面から"いじめ"をテーマに描いた小説でいろいろと考えさせられます。

重松清は読後にも思索を引きずるので好きです。

by HanageDarake (2013-07-23 11:24) 

あゆこ

Hanageさん(*^_^*) こんにちは!

重松清、いいですよね。原作は読んでないのでわからないのですが、濃い視点が散りばめられた短編集なんでしょうね。今、枕元に『まゆみのマーチ』と『ナイフ』があって、しかも『まゆみのマーチ』は一回読んだのに忘れていて、読んでまた泣いて…、全然新しいのが読めません。『青い鳥』は当分先になりそうです( ;´Д`)。
感想レビューがもし出来ましたら…なんて図々しくすみません。

『十字架』…『青い鳥』の生徒の苦悩と同様、仲良くしていた人に裏切られるのが一番辛いというあらすじでしたかしら…。映画でも双方が可哀想でたまらなかったので、読むと辛くなりそうです。『十字架』と同時期にヒットしたいじめの話『ヘヴン』でも、かなりひきづったので『十字架』は控えた記憶があります。でも、読みたい本のリストのなかの一冊です。というより『ナイフ』を読むなら『十字架』を読むべきかしら。
by あゆこ (2013-07-25 01:05) 

HanageDarake

『十字架』は、ある中学生が自殺した際に遺した遺書を発端として、遺族、同級生など、残された人々のその後を描いた小説で、それぞれの立場に生じる軋轢、苦しみをうまく描いています。
もう一度読みたいと思っている小説なので、その時にはレビューを書いてみようかと思います。
書かなかったら、ごめんなさい( ̄▽ ̄;

『ナイフ』も昔読みました。
もう十年以上前に読んだので、内容はさっぱり憶えていないのですが、『ナイフ』で重松清を好きになったのは憶えています。
それまでの重松清の小説はどこか陰湿な感じがあって好きになれなかったんですが、『ナイフ』に収録されている短編の一つ(どの短編かは忘れました…)をきっかけにそんな雰囲気が消えたように僕は感じました。

せっかく手元にあるので、『ナイフ』から読まれてはいかがですか?
って、もう一週間も経ってるので、既に読んでるかもですね。
失礼しました(^^;
by HanageDarake (2013-08-01 13:22) 

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