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『猫泥棒と木曜日のキッチン』橋本紡 [本]


猫泥棒と木曜日のキッチン

親に捨てられた子どもは弱いの?そんな疑問から、生まれた一冊とのこと。
猫の命を通して子ども達は心の在処を探し当てていく。
流れるような文章と立ち止まり方がいいので抜粋!

邪な目的でも登校意欲があることはいいことだ

いつだったか、テレビでやっていた時代劇で、織田信長役のオッサンが、
「是非もなし!」と叫んでいた。明智光秀に襲われたときのことだ。
是非もなし。
僕流に訳すると、
「ごちゃごちゃいってもしかたない」
ってことだ。
 僕の足もそういうことだった。
退部届を出したとき、顧問の先生は泣きそうな目で見つめてきた。
「わかった」
先生はそう言って退部届を受け取ったけど、全然わかっていなかった。

これは誰にも言ってないことだけど、というか言えないことだけど、
僕はそう言うのがうざかった。そういう人への感情のほうがきつかったくらいだ。
たったひとり態度のかわらない人間がいた。

「コウちゃん、生き物が死ぬってこと理解できるかな」
今は無理だと思う。健一が言った。
「そういうのって理屈じゃないから。なんていうのかな、積み重ねていって、自然と身につけるものなんだと思う。そのまんま、全部呑み込むっていうかさ。」

愚痴るように言うと脩さんは苦笑いを浮かべた。
「そういう人は、なにか多いんだよ」
「なにかって」
「まあ、身も蓋もない言い方しちゃうと脳内物質ってことになるんだろうけど。そのせいで、メロメロになっちゃうんだね」

「変です、それって」
ああ、思っていることをちゃんと説明したいのに、ぴったりの言葉が出てこない。
たくさんの気持ちがぐるぐるまわって、ひとつに固まっちゃったような感じ。
これじゃ獣医さんはわからないだろう。

確かに一回遊びでやっちゃうとずっと遊びになっちゃうな。なんか付き合いが軽くなるっていうか。

参った。
まったく恋ってのはやっかいだ。ひたすら振りまわされて、下らないことでむちゃくちゃ喜んだりおちこんだりして、自分でもどうかしてるとわかってるのに、まったくコントロールできない。恋なんてない方がマシ。そうすれば、僕は今よりずっと穏やかに過ごせるだろう。
でも神様が・・
ほんと恋って理不尽なものだ・・・。
ただまあ、考え方を変えてみれば、そういう理不尽さってのはけっこう大切なのかもしれなかった。
理詰めで処理できるほど僕は強い人間じゃない。早く寝た方がいいのに深夜まで起きてたり、テスト前なのにあそんじゃったり。
 無駄ってのはただ無駄なんじゃなくて、それなりに意味があるんだと思う。なんだっけな、生物学の偉い人がこの前、そんなことをテレビで言ってたんだよな。無駄な性質をたくさん抱えた種ほど、危機に陥ったときに生き延びる確率が高いんですよって。
 だから理不尽なのはかまわないんだ。
 そういうこともある。
 ただ、はずれきっちゃうのはさすがにやばかった。


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