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映画『KOTOKO』 [movie]


コトコノコ



目の前で我が子が危険にさらされたならば、あなたは平静を保てるだろうか?
母親にとって我が子はいわば分身。危険があればあるほど境界が曖昧になり平静さを欠落させて行くに違いない。

琴子には世界が二つ見える。他者は常に我が子を危険にさらす存在なのだ。他者がいる限り危険があるのが日常。平静が保てるはずもなく自らを追い込んでいく。

折しも、放射能の判然としない安全基準…リスクを負ったもの負けという現実を前に、心配のあまりエキセントリックと映る母たちの母性と重なり普遍性を色濃くする。
全く他人事ではない。


赤裸々な感情の表現者、Coccoの歌詞世界に想起され、鬼才塚本晋也監督が自身の亡き母への慕情をこめて、垂れ込める戦争に突き進む予感→我が子が危険に曝された時の『母性』を、「琴子」という”監督の作り出したCoccoのイメージ”を使って描いている。

世界が二つ見える設定も、Coccoと話しを重ねた結果のよう。Coccoの故郷、沖縄も舞台になるのだけれど、自然だらけの沖縄が映されると何かしら霊的なものと遮断されてない感じがして、もうひとつの世界が現実に『みえる』設定が当たり前に思えてくる。

もともとCoccoの唄世界は流行ではない、普遍的な感情を濃縮させたものなので、それだけで寓話のように在る。その理由に近づけたとも言えようか。

作中、Coccoの演技を感じさせない錯乱状態は、不安というジェットコースターに一緒に乗っていると錯覚するくらい…
だからCocco自身が、危ういメンタルを赤裸々に出していたのかと思いきや、監督に言わせると「何を要求されているかよく汲み取って演じていた。生まれついての表現者だ。」とのこと。

生まれついての表現者は自身を俯瞰して見るのが当たり前だから、演じることも『自身』でいるだけで成り立ったりするのかもしれない。監督から見たCoccoの映画だから尚更なのだろうけど。

Coccoの担当した美術がまた秀逸。あの色使いはなんなんだろう。妄想になだれ込んだ先のミシェルコンドリー風の手作りおもちゃの世界を見ても、表現者としての幅の広さに陶然としてしまった。

子役として実のお子さんも登場。健全なそのたたずまいに、世間的な範疇にない確かで大きな愛の存在を感じた。そしてその愛は観るものを確実に救っている。

(どんなカタチに変化しても、愛は人を裏切らない。)

それを成り立たせる寓話を世の中は求めているはずだ。

多少極端ではあるけれど、その暗喩にどれだけの人がそれに気がつくことが出来るのだろうか。
映画読みにはジワリとくるはず。大衆的ではないからこそベネチア国際映画祭オリゾンティ部門最高賞〜世界での受賞に納得。

映画館で観賞。ハンディカムで録られたリアルな音と唄が際立ち、心理に及ぼす効果が存分に感じられてよかった。

監督挨拶もあった。海外で評価が高いという鬼才/塚本晋也監督は、崩壊と衝撃を畳み掛けていく映画『鉄男』でしか知らなかったが、彼の語りを聞くことで、思いをカタチ作る確かな「知」に行き当たれた。
よい体験ができた。



以下、新聞の評を転載。

『KOTOKO』〜他人事ではない自他の関係失調 (山根貞男)

 若い母親の心の叫びを描いた女性映画である。ヒロインを演じるのはシンガーソングライターのcocco。映画初主演に加えて、企画、原案、美術、音楽と多様な役割を務める。

 ヒロイン琴子には世界を二つに見える、赤ん坊を抱いて道を歩いていると、自転車に乗った中年男を襲いかかる。琴子は恐怖に陥るが、男は単に通り過ぎてゆくだけだ。近所の主婦が赤ん坊を見て、まあ、かわいいと近づくや、琴子には我が子を襲う悪魔にみえてしまう。
母性の過剰さが他人との関係を失調させるのである。琴子は子どもを沖縄の姉に預けるが、東京での孤独な日々の中、リストカットを繰り返す。自己との関係が失調するわけで、歌を口ずさむときだけ心が安らぐ。

 監督は塚本晋也。琴子の歌に魅せられる小説家を自ら演じるほかに、企画、政策、脚本、撮影、編集も務める。

 琴子は近づいてきた小説家に暴力的に追い払う。それでも彼は怯まず、傷だらけになりながら求愛する。琴子は沖縄で健やかに成長した男の子の姿に安心し、小説家と暮らすが、また妄想がぶり返し、彼への暴力が日に日にエスカレートする。

 荒れ狂う女と、満身創痍で彼女を抱きしめる男、まさに地獄図だが、同時に、何か熱いものを強烈に訴えてくる。描写の細部が過酷な関係の劇をリアルに感じさせるのである。琴子における対他・対自の失調はとても他人事とは思えない。

 終盤、錯乱の高じた琴子はさらに無残な行動に突き進む。それがどのように衝撃的で、どんな結末に至るかは、ぜひ映画館で見届けていただきたい。

 個性豊かな歌姫と映画作家のコラボレーションは、東日本大震災と原発事故を挟んで続けられ、愛の映画に結実した
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